御詫び
本篇は昭和十八年三月完成封切された黒沢明氏の第一回監督作品「姿三四郎」を昭和十九年三月再上映した際に当時の国策の枠をうけ、監督黒沢明氏並びに製作スタッフの関知せぬまま1,856呎短縮されたものであります。
此のたび公開保留が解除されましたので再上映に際し原形に戻すべきでありますが、不幸にも戦時の混乱の中で短縮した部分のネガフイルムを散逸し、どうしても原形に戻す事が出来ません。
併し当社は此の作品がそういう不充分な姿でも尚且つ再び世に問う価値があると信じますので−
この形のまま公開する事と致しました。
以上簡単ながら事情を申述べ観客各位の御諒觧を御願いする次第であります。
昭和二十七年四月 東宝株式会社

注釈
上記の内容は写真三枚目の部分に書かれているものをそのまま此処に書き表している。
ここでの「国策」とは「電力節約」の事を指しており、全長97分(9巻 2,659米)のネガフイルムを79分(8巻 2,166米)にカットされたとしている。
そのカットされた部分とは檜垣源之助にかかわるシーンや三四郎が師から特訓を受けるシーンで、その他にも一部シーンやセリフが欠落している箇所もある。
そしてソ連崩壊後、ロシアで満州国からソ連に持ち去られたカット・フィルムが一部発見された。
2002年に発売されたDVDではその部分が付け加えられ91分の「最長版」が収録されているが、まだまだ原形に戻ったとは言えず不充分なままで今日に至っている。
故に此処で公開している台本は1952年(昭和二十七年)再々上映した時に、再度手掛けられた79分「短縮版」の台本と言う事になる。